「Intel QuarkなIntel Edison」と「Intel AtomなIntel Edison」

はじめに

先日公開したメモ“「Intel Edison」のSoCはいったい「何」なのか?”をお読みになった方より、

  • CES 2014でデモされたEdisonと発売されたEdisonの開発はどの程度オーバーラップしていたのか?

とのご指摘をいただきました。

全くその通りで、その点は非常に重要なのです。しかし、先日のメモではこの点を考察していませんでした。そこで今回はこの点を踏まえて、先日のメモの補足という形で考察してみたいと思います。

2015年4月5日追記

初期発表時の「Intel Edison」のモックアップ説の一部を撤回”で表明したように、全ての旧Intel Edisonがモックアップだったのではないかという説を撤回しました。本メモはその反映がなされていませんので、その点ご留意ください。後程内容を調整する可能性があります。

2つのIntel Edison

Intel Edisonは少なくとも2つあり、1つ目のIntel EdisonがCES 2014で発表され、その81日後に公式ブログで2つ目の別のIntel Edisonに切り替わったことが明らかになりました。

このメモでは前者をEdison(Q)※1、後者をEdison(A)※2と呼称したいと思います。

Intel QuarkからIntel Atomへ

先日のメモでも書きましたが、先に発表されたEdison(Q)はモックアップであったと私は見ています。しかし、それでもそれをIntel CorporationのCEOであるBrian Krzanich氏が発表を行ったということは、当時のIntel Edisonという製品はこのEdison(Q)を想定していたことは間違いないでしょう。

それが81日後に公開された公式ブログでEdison(A)に切り替わったことが公表されるまでにあったであろうことを、私の想像で補完してみたいと思います。

切り替わるまでの経緯

私は当初Edison(Q)が先にあり、Edison(A)が後付けで作られたと考えていましたが、開発期間がオーバー・ラップしているであろうことや、Edison(Q)の発表会場で「Intel Edisonを搭載したとする動作デモ」が実際に行われていたということを考え合わせると、IntelはEdison(Q)の開発を終える前にサード・パーティーにEdison用の機器とソフトウェアの開発を依頼するためにMerrifieldを転用した「Edison(PA)※3」を仮の開発プラットフォームとして採用した開発用ボードを配布していたのではないかというように考えを改めました。

これは現在のEdison(A)そのものではなかったかもしれません。しかし、実際に動作する機器を作成するために必要な能力は備えていたものと推測します。そうでなければ「Edisonによって動いている」というデモが成立しえないからです。

このような事情のために「実動デモ」であるのにもかかわらず、Edisonが見える形で搭載されたものがなく、プレス向けに配布されたEdison(Q)の画像も切り貼りや不鮮明化の加工が行われていたものだったのではないでしょうか?※4

このように考えると、私が当初認識していたのとは反対に、先にあったのはEdison(Q)ではなくEdison(A)あるいはそのベースとなるEdison(PA)であり、Edison(Q)はその後の開発プロジェクトが生み出す「はず」の製品であったのではないかと思えてきます。

Intel QuarkベースのIntel Edisonが企画された理由

Edison(Q)が計画された背景はコードネーム「Lakemont Core」がコードネーム「Silvermont」と比較して消費電力面での優位性が見込めることやSDカード・サイズにする目標があったこと、Intel Galileo系の開発リソースを継承して活かすことなどがあったのかもしれません。

しかし、Edison(Q)を作るために専用のSoCを設計してリリースするために必要な設計・検証のリソースや期間の問題、また性能上の問題、開発そのもののリスク、そしてそれらのために必要になる費用などを勘案すると、Intel Edisonが目指すビジネスにはフィットしないと判断されたのではないかと思われます。

そこでEdison(Q)開発プロジェクトは凍結(あるいはIntel Curieの開発プロジェクトへの切り替え※5)され、本来はサード・パーティの開発用として作られたEdison(PA)を製品にするプランに切り替えることになったのではないかと推測します。

Intel AtomベースのIntel Edisonが製品化された理由

言うまでもなく、大量に出荷される予定の製品に採用するSoCを寄せることができるのであればそれに越したことはありません。であるならば、大量に出荷することを会社としての目標にしているMerrifieldを採用したEdison(PA)のプロジェクトを製品とする決断を行うことに対する否定的要素は多くはありません。

動作クロックを制限し、搭載する機能を絞れば十分に省電力を実現できることは明らかであったことも計画の切り替えを後押ししたことでしょう。1つ問題があるとすれば、SDカードのサイズに収まらない点です。

これも以後の改良でSDカードのサイズに収める予定であったのではないかと思われます。公式ブログではないのではないのですが、2014年にサンフランシスコで開かれたMaker Conの2日目において、Intel CorporationのVice president and general manager of the New Devices GroupであるMichael A. Bell氏が語ったところによれば、

  • Edison will start with faster, larger version to be used in drones, 3d printing, then return to SD card sized board – available this summer, size determined by flash memory

(さかきけい意訳)

  • Edisonは高速になり、ドローンで使用されているようなより大きなバージョン※6、3D印刷、そしてSDカードサイズのボードへの回帰 – 今年※7の夏に使用可能になります。サイズはフラッシュ・メモリーで決まります。

Maker Con Day 2 – AM Sessions | Rock N Roll Scienceより引用

ということであったそうです。しかし、実際にはSDカードのサイズまで縮小されることはなく、最終製品へと至ります。

まとめ

まとめると以下のような流れであったのではないかと推測します:

  • Edison計画が立ちがあり、Intel Quarkをデュアル・コアで搭載するEdison(Q)が構想される。
  • Edison(Q)の開発中に並行してサード・パーティー(初期パートナー)がハードウェアおよびソフトウェアを開発できるようにMerrifieldをベースとした仮の開発ボードを用意(以下、Edison(PA)。
  • CES 2014での発表用に構想中のEdison(Q)のモックを作成。
  • CES 2014での動作デモにはEdison(PA)を搭載したものを展示。しかし外観がSDカードではないなど、Edison(Q)とは異なるために見えるような展示は行わず。
  • 諸事情によりEdison(Q)計画を凍結。
  • 代わりにEdison(A)を製品とすることを決定。
  • 公式ブログでEdison(A)を公表。
  • 中国・深セン(Shenzhen)市で行われたIDFでEdison(A)を発表。

そしてその後、現在の私たちが知っているIntel Edison Compute Moduleへとつながっていったのではないかと推測します。

当然これが絶対に正しいというつもりはありません。しかし、こう考えるといろいろなことがすっきりとつながるように思えるのです。一言で言えば「納得感がある」のです。

ひとつの推測の物語ではありますが、いかがでしょうか?

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2023年3月23日更新

一部リンク先が当時と異なる内容のサイトへと変化したため、リンクを解除しました。


  • 「旧Edison」ではなく「Quark版Edison」の意味です。
  • 「Atom版Edison」の意味です。
  • 「初期(Pre)Atom版Edison」の意味です。
  • コードネームMerrifield関連の製品群が正式リリース前であったことも影響していると思われます。
  • アイルランドのIntel現地法人が、2014年初頭から中ぐらいまでQuarkの開発技術者を募集しているのを見かけていたので人員整理は行っていないはずです。
  • Intel Quarkよりも多くの演算が可能なIntel Atomになったことを指しているものと思われます。
  • 2014年の発表ですので2014年のことです。

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