CPU へのノースブリッジなどの統合

はじめに

Intel がリリースする CPU は、(いわゆる)ノースブリッジを含む全てのチップセットを別チップで提供するという方式を採用していますが、対する AMD は、ノースブリッジを CPU に統合するという方式を採用しています。これはどちらがより優れているかという話ではなく、それぞれ利点と欠点があるとみるべきでしょう。

CPU とノースブリッジを統合する利点と欠点

利点はいうまでもなく、メモリアクセスのために必要となるレイテンシ(遅延)の削減です。また必要であれば CPU の動作そのものをメモリアクセスに対応させたものに変更することができる可能性をももたらします。

欠点は対応するメモリの仕様に変更が生じたときに、CPU そのものの設計を変更する必要があるということです。また同時に、同じピン数で実現できないメモリである場合にはソケットなどの物理形状の変更を必要とする可能性もあります。普通に考えれば、ノースブリッジ相当の機能ブロックだけを仕様変更しテストすればいいように考えがちですが、同じチップに搭載する以上、CPU 全体のテストが不可欠なのです。それはチップセットのテストよりも大規模であり、時間や手間のかかるものになります。

また、ダイの面積も CPU 単独の場合と比較してノースブリッジの分が加算されることにもなり、CPU とノースブリッジを分離しているケースと比較して生産コストの増大をまねきます。

CPU とノースブリッジを分離する場合の利点と欠点

最初にあげることができる利点は、CPU の設計とその他の設計を完全に分離することができるという点です。同じ CPU チップでありながら、組み合わせるノースブリッジの種類を変えることで対応するメモリの種類を変更することができます。さらに必要であればその他の点をも変更することができます。その他にも統合する際の欠点となっていた全ての点が逆に利点として現れます。

欠点は統合した場合に利点としていた部分が反転して現れます。つまり、メモリアクセスで必要となるレイテンシ(統合したチップと比較して)の増大です。

モノリシックカーネルとマイクロカーネル

この関係はソフトウェアにおける、モノリシックカーネルとマイクロカーネルの議論に似ているように思えます。モノリシックカーネルが AMD による CPU とノースブリッジの統合プランに、マイクロカーネルが Intel による CPU とノースブリッジの分離プランに比較できないでしょうか。

それぞれには利点と欠点があり、どちらが一概優れているとはいえないことは、ソフトウェアの歴史を見ることでも既に答えが出されているように思えます。

利点と欠点はそれぞれ同じ事象を別の視点から見たことであり、薬を服用した際の期待作用と副作用のようなものでもあります。

Intel のチップセットで行われると予想できること

私は Intel が分離型のチップセットを採用する際に、あるプランを選択したのではないかと考えています。それは、チップセットの高度化です。

分離型のノースブリッジを採用しているため、チップセットの機能を単独で随時変更することができ、またそのトランジスタ数やダイサイズの決定に対して統合型と比較して大きな自由を得ることができています。通常ケースのレイテンシが統合型に劣るとしても、平均としてのレイテンシを削減することができれば、それは実質的なレイテンシの削減を実現するのと同じ効果を発揮させることも可能となります。

このことから、Intel は今後ノースブリッジやその他チップセットなどを含めて、従来以上にインテリジェントな実装を行うのではないでしょうか。その昔、ノースブリッジがセカンドキャッシュやサードキャッシュのコントロールをしていた時代のようなことを、オンチップで行ったり、複数のプロセッサによる単一リソースに対するアクセスの高度な制御を行うなどです。

これを予測したのは少し前で、某 IRC チャネルで妄想として述べていたことですが、既に一部を Intel は搭載してきているように見えます。今後ますますこの方向が進む可能性があると思うのですが、どのようになるでしょうか。

まとめ

CPU にノースブリッジ(あるいはその他のチップを含む)を統合するメリットとデメリットはそれぞれに存在するため、現時点でどちらが優れているかは論じることができないように思います。一般向けのノースブリッジ統合チップで成功した例は AMD の Athlon 64 / Opteron シリーズに見ることができますが、それ以上に失敗した(主流になれなかった)例の方が多いことも事実です。

今後の統合トレンドがノースブリッジやその他のチップセット、サブプロセッサにどのように及ぶかはわかりませんが、統合されたチップだからすごい、性能が高い、という視点ではなく、実際にそのリリースされたチップの利点と欠点を注視していく必要があるでしょう。

例えば、チップセットに内蔵されたグラフィック機能は、チップセットの先に接続されているグラフィック機能に速度面で劣ることがほとんどです。これはチップセットに内蔵されたグラフィック機能が統合されているが故の制約を受けていることに起因します。これに対して、レイテンシが増大するとしても外付けのグラフィック機能のほうがより大きなロジックと専用のメモリ帯域を用いることができ、性能面でも上であるわけです。このことからもわかるように、統合されているか否かというのは性能に結びつく要素の1つでしかないことがわかります。

現在のトレンドに沿って、各種機能が統合された未来の CPU はどのようなものになるのか、今からとても楽しみです。

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