少し前の記事になりますが、AMDがMantleをソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーション4(PS4)あるいはMicrosoftのXbox Oneにも載せることができると明言したそうです:
- 「MantleはDX12までのつなぎではない」「PS4やXbox Oneにも提供可能」。AMD,Mantle関連の新事実を明らかに – 4Gamer.net
- AMD、Xbox OneとPS4にMantleを提供の用意 ~Kaveri用HSA対応4Kデコーダは6月に公開か – PC Watch
- 日本AMD、「HSA」に関する説明会を開催 – Mantleの新情報やDirectX 12にも言及 (2) Mantleの新情報や気になるDirectX 12との関係にも言及 – マイナビニュース
上記のうち、PC Watchの記事によると、AMDのNeal Robisonさんが以下のように発言したそうです:
「ゲームコンソールでは、(PCと違って)ハードウェアは固定されているが、ソフトウェアで拡張を行なうことはできる。我々は、双方に対してMantleを利用できるようにする予定だ。ただし、それを実際利用するかどうかは彼ら次第となる」
この発言によってわかるのは、「Microsoftおよびソニー・コンピュータエンタテインメントとも、自社のゲームコンソールにMantleを搭載することに同意していない」ということです。つまり、AMDは当初のMantleの発表時から、AMD RadeonのGCN世代共通でゲームコンソールからWindowsまで単一のAPIであるMantleを使ってゲームを作成できるということを強く示唆してきました※1が、いまだにこれが実現できる目途がついていないということを明言したともいえます。
先日の発表で、MicrosoftはDirectX 12を自社の製品ラインナップであるWindows、Windows Phone、Xbox Oneに展開することを明らかにしており、MantleをXbox Oneに導入するというAMDの目論見は事実上とん挫しています。
そしてDirectX 12を推進する立場のMicrosoftは、今後もAMD独自のMantleをXbox Oneへの導入に同意することはないと予測します。というのも、MicrosoftはXbox OneだけのためにDirectX 12を設計しているわけではないからです。前述のようにWindowsおよびWindows Phoneへも搭載するものです。
これは、単一のアプリケーション・ソースコードから複数プラットフォームのネイティブな実行ファイルを作って展開できるようにするという、最近発表したMicrosoftの構想※2の一部をなすものです。ここにAMD独自のMantleを混ぜてしまうと、この構想の実現に対する障害となってしまうわけです。まさか、3プラットフォームともAMD専用にするわけもいきませんから、結果としてMantleを入れるという選択肢は取りえないのです。※3
AMDがMantleを発表した際に書いたように、AMDにはメリットがあることでも、OEM先のMicrosoftとソニー・コンピュータエンタテインメントにはメリットがなく※4、それどころか自社プラットフォーム上におけるソフトウェアインフラが分断されることになりかねない提案にのるはずもなく、Mantleのゲームコンソールへの採用はおそらく今後もないのではないかと私は考えています。
これによって、AMDのMantleはWindowsパソコンに限定されたサポートとなることがほぼ確定したとみることができるでしょう。そのWindowsパソコンでもDirectX 12の足音が迫って来ており、Mantleは傍流へ向かいつつあるように見えます。
- 例えば“AMD独自グラフィックスAPI「Mantle」の詳細が明らかに。理論上はGeForceのMantle対応も可能! – 4Gamer.net”という記事では、取材したライターの西川善司さんがMantleを使用する場面の3つ目のケースとして以下のように書いています:
「そのアプリケーションを,GCNベースのGPU環境でマルチプラットフォーム展開したい」場合になる。要するに,GCNベースのGPUを採用するPS4やXbox One用のゲームを,同じGCNベースの別の機種やPCへ移植したいという状況だ。
- このMicrosoftの構想は「Universal Windows Apps」と呼ばれており、日本語でもいくつか紹介記事が出ています:
- 携帯からPCまで動くUniversal Windows Apps はXbox Oneにも対応、ただし選ばれたアプリのみ – Engadget Japanese
- Microsoftが複数のプラットフォーム向けのアプリを共通化するプロジェクトを発表 – GIGAZINE
- 【特別企画】Universal Windows AppsやOSの一部無償化で逆襲なるか? Build 2014からMicrosoftの戦略を見る – クラウド Watch
- Windowsはこれからどうなる? Build 2014の発表内容をおさらい – ITmedia PC USER
- 本田雅一のBuild 2014リポート:「Windowsの無料化」でスマホとタブレットの挽回を狙うMicrosoft – ITmedia PC USER
- MantleをDirectX 12の代わりに共通基盤にするという手法も理論的にはあり得ますが、その技術的必要性や実行理由をMicrosoftが持たないことは説明するまでもないでしょう。
- MicrosoftにとってDirectX 12の導入によって性能上もメリットがなくなり、ソニー・コンピュータエンタテインメントの3D APIはもともと薄いレイヤーであることが特徴であり、Mantleによる性能アップは限定的であると思われるため、明確なメリットがないと考えます。