「幾原邦彦の世界」でのお金や押井守監督の話など

マチ★アソビ vol.11」というものが、2013年9月28日から10月14日まで徳島市で開催されて、その中のトークイベントで「幾原邦彦の世界」というのがあり、幾原監督庵野監督らが出演していたとのことです。その中で押井監督について庵野監督が言及している部分があります:

前者のレポートから該当部分を引用します(技術的理由でマークアップを変更してありますが内容はそのままです):

幾原
アニメは億単位のプロジェクトなので、やはりプレッシャーが凄いですね。こないだも半沢直樹が何億か取られて危ないことになってたじゃないですか。
会場
(笑)。
幾原
『セーラームーン』ではお金の管理を全てやることはなかったですが、『ウテナ』のときにビーパパスというスタジオを作り、独立して一番怖かったのがそこ。億単位のお金が見る見る減っていく。札束で焼き芋焼いてるような感覚ですよ。
会場
(笑)。
幾原
億単位のお金で焼き芋を焼いて、本当にただの焼き芋ができたら申し訳ないじゃないですか。せめて良いものにしたい。うっかり使い過ぎて、スタッフに払うお金がなくなってもダメだし……。
藤津
お金のプレッシャーについて、庵野監督はいかがでしょうか。
庵野
人それぞれだよね。イクちゃんはかなり気にするほうだけど、押井ナントカって人はこれっぽっちも考えないですよ。
幾原
(「(ちょっと!)」と、止めにかかる)
会場
(爆笑)。
庵野
お金は貰うものと思ってるんじゃないですかね。だから当たらないものを平気で作るんですよ。
幾原
(笑)。

庵野監督が押井監督のことを面白おかしく茶化しています。会場にも大うけだったようです。私も現場でこのトークショーを見ていたら爆笑した一人となったことでしょう。さて、じゃあ、その「押井ナントカ」っていう監督はこの点、どのように考えているのか、ということを紹介しようと思います。

というわけで、押井監督がこの点について語っているのがどこかにあったはずだと思い、ゴソゴソと探してみると、以下のDVD-BOXに収録されていました:

このDVD-BOXは3枚組で、そのDISC 3に「樋口真嗣×押井守 激辛対談/逆襲!! 牛丼の牛五郎! ~押井守暗殺指令」というタイトルのお二人が中華料理とお酒に手を伸ばしながらの対談が収録されています。映画監督としてのいろいろな思いや考え方など、実に充実したトークが繰り広げられている中から、出資者≒プロデューサーとの関係について語っている部分を抜粋して字に起こして以下に引用します(敬称略、ほぼ発言通り起こしてありますが、聞き取りにくかった部分は完全ではないかもしれません):

監督の勝利条件

押井
監督の、勝負するための勝つ条件は1つしかない。それは次回作を撮る権利を留保することであってさ。で、それに忠実にやってるよ。リンチはおそらく考えてないだろうけど、俺はやってる。
樋口
wwww
押井
リンチはやってないよ、どう考えてもやってない。

(中略)

押井
だから決してプロデューサーを失望させてはならない。だから、興業的なものと作品の評価といずれかを勝ち取れば、次が留保できるんであってさ。そりゃ、両方だったらいうことないと思うだろうけど、ところがギッチョンね、両方獲得すると意外と次が撮れないもんなんだよ。これは経験上言うんだけどさ…。両方得たことは一回もないからさww
樋口
じゃあ、経験でもなんでもないじゃないwwwww
押井
周りを見ててそう思うの。それは、さっき言った某大監督がそうじゃないの。両方を獲得しちゃったわけだ。ものすごく不自由なところで仕事をせざるを得なくなったよね。
樋口
うんうん(ゆっくり首を縦に振り続ける)
押井
あれは絶対俺はいやだね。しんちゃんの席に座りたい監督だって、実はね、ごちゃまんっているはずだよ。いると思うよ。あんだけの予算でさ、あの規模で撮って、なおかつ興業的に大成功して、ねぇ、わっはっはっていう、それも一つの監督のありようなわけだ。で、それをしんちゃんが良しとしているかどうかは知らないけど、でも、本当はさローレライだってさ100%好き放題やりたいことやったら絶対ああいう映画になってないだろうなっていう。どっかで。
樋口
意外とね、それを突き詰めていくと、どこかで何かと引き換えにしている部分はやっぱりあるわけですよ。
押井
それはそれで引き換えにしたかもしれないけど、それをやったとしたら、まぁ、3~4年は撮れない覚悟が必要かなっていう。
インタビュアー
それは「天使のたまご」以後?
押井
そうだね。あれは今思えばね、監督の信用条件とか何にも考えていなかったね。ゼロだって。それこそさ、某大監督が言ったように特攻隊みたいな映画だってさ、行くことしか考えてない、作ることしか考えてない、帰還することを考えてないんであってさ、それはその通り。だから3年間、もがいたわけだ。だから、「パトレイバー」やるときにはしっかりそういう意識はあったわけさ。次につなげるぞ、って。

2007年10月6日収録ということで、(2013年現在で)もう6年くらい前です。なので考えが少し変わっている部分もあるかもしれませんが、基本路線はこのままなんじゃないかと思います。

さて、これと上で引用した庵野監督、それに幾原監督の発言を比較すると、よくわかることがあります。実はみなさん、それほど違ったことを言っていないってことです。ただ、庵野監督から見たときに押井監督がそう見える、というだけの話なんですよね。庵野監督の方が興行的に成功させるという方向に重きを置いているように感じました。幾原監督はお金で普通の焼き芋=作品ができてしまったら申し訳ない、といっているところをみると、普通ではない評価される作品を作りたいという思いがやや強く、その点では押井監督の興行的成功か作品の評価としての成功かいずれかが必要という考え方に庵野監督よりはやや近いのではないかと思いました。

上の書き起こしからは省きましたが、押井監督いわく、世界で自分は3番目に勝手な監督だそうです。1位はリンチ、2位はラース・フォン・トリアー、そして多分3番目くらいに自分だそうです。あとは「うる星やつら」の「オンリー・ユー」と「ビューティフル・ドリーマー」の間での意識の違いなどなど。このあたりも非常に面白いことを言っているので機会があったら見てみてください。

押井監督のファンあるいはアンチだけど知りたい人、あるいは何等かの理由(仕事、ライフワーク、趣味など)で調べたい人には、このDVDの資料的価値は高いと思います。先ほど見てみたところ、5年前の初回限定盤なのにAmazon.co.jpにはまだ在庫がありましたので興味のある方にはお勧めします。

今回は作品自身ではないところを中心に紹介しましたが、作品自体も大変面白く、私は気に入っています。押井作品としての難解さはさほどなく、オムニバスなので1つくらいは気に入る作品があるかも、くらいの軽い気持ちで見てみるとよいでしょう。


書き起こしってあまりやったことがない(議事録は別)のですが、なかなか難しかったです。正直、私は映画の知識があまりないので、固有名詞が出てくると、その時点でいったん停止です。見ているだけならいいんですけど、書き起こすとなるとその固有名詞がいったい何を意味するのかを調べてからではないと先に進めないんですよね…。おかげで、結構勉強になりました。しかし、時間もかなりかかりました。

今回の話に関連する部分を実際に使った量の3倍くらい書き起こして、そこからさらに厳選して抜粋引用しました。本当は全文紹介したいくらい濃くて面白い話なのですが、それはそれ。興味を持ったらぜひ本作品のDVD-BOXを見てみてください。

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