Internet of Things(IoT)市場を攻略しようとするARMの構想について思うこと

はじめに

後藤弘茂さんの連載記事でInternet of Things(IoT)に対するARMの姿勢をレポートする「【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】2020年には300億デバイスが予想されるIoT市場に賭けるARMPC Watch」という記事が出ていました。

読んでみて(この記事に対してではなく)、この流れについていろいろと思うところがあったので、私が思うことなどを書いてみたいと思います。

Internet of Things

さて、IoTってなんでしょうね。一般には「モノのインターネット」などと日本語ではいうようですが、どうも私にはこれはしっくり来ません。なので、いつもはIoTあるいはInternet of Thingsとそのまま書き、「モノのインターネット」とは書かないことが多いです。IoTという言葉のニュアンスとだいぶ違う気がするからです。なので、ここでは特に日本語を当てずに、以下IoTと記述します。

ARMとIntel

ARMはIntelと異なり、自前では最終製品を作らない企業です。いわばソフトウェア企業ですね。それもファブレスとも違い、製品を物理的には製造しないという点が、多くの半導体企業とは異なるところです。その最終製品を持たないARMがIoT市場を切り込むための姿勢を表明した内容をレポートするのがこの後藤さん記事です。

先ほども書いた様にARMは最終製品を自前では作りません。ですから、IoT市場へ向けた姿勢といっても、こういう製品でこういう風に切り込みます、といった、具体的なビジョンではありません。ARMの顧客となる各社に対して、必要な設計をARMが提供するので、こういう風に切り込みませんか?という提案に相当します。また、そのARMアーキテクチャを使用したプラットフォームでその提案を実施するにあたっての障壁をできる限り下げるための各種サポートやソフトウェアの用意や提携を行うことが、ARMのビジネスの伸長を図る手段となるわけです。

後藤さんのレポートを読む限り、ARMは上から下まで、すべてARMで統一するビジョンを描いているようです。これはIntelの描くビジョンと同一ですね。IntelはIntelでIntel Architecture(以下、IAアーキテクチャ)で統一するビジョンを描いています。このように両社は競合するビジョンを描いているわけですが、Intelと異なりARMは自分自身にそれを実行する力はありません。そこでパートナーおよびライセンシー各社や潜在的な未来の顧客が「IoT市場に切り込む際にはARMだ」と思えるような環境あるいは状況と言ってもいいものを作り出す必要があります。

ARMアーキテクチャは組み込み市場やタブレット市場、そしてスマートフォン市場を制しています。この延長上にIoT市場を据えることで、ARMアーキテクチャでの攻略を狙っているわけです。

一方のIntelは、PC市場を制しており、またサーバー市場の大部分を制しています。これらの多くのソフトウェア資産と開発リソースをそのままIoT市場でも活用できるようにし、また現在はARMアーキテクチャの領域となってしまっているタブレット市場およびスマートフォン市場への進出を狙っている、という立ち位置にいます。

IoT市場にどちらが有利か、というのは何とも言えません。どちらにもチャンスがあると思います。IoTで集まったビッグデータを処理するサーバー市場は、現在のところIAアーキテクチャ優位の世界です。また、そのデータを表示したり加工したりするPC市場もIAアーキテクチャが優位です。

一方で、IoT市場に進出するであろう、組み込み系やスマートフォンなどのメーカーはARMアーキテクチャ優位の世界の住人です。IoT市場向けのデバイスを作るにあたり、あえて新しいIAアーキテクチャを採用するよりは、現状で使用しているARMアーキテクチャを採用しようとする意志が強いでしょう。

この状況でARMとIntelはそれぞれの立場で綱引きを行うことになります。

ARMの柔軟性

ARMは設計情報を提供するという関係上、そのライセンスを受けて生産する側(=ライセンシー)に多くの柔軟性があります。これがSoCとして各種専用設計のチップを生み出す原動力となっており、またARMを採用する強い動機にもなっています。これはIntelの製品には全く存在しない強みです。

一方で、この柔軟性のために自分自身で最終製品の方向性を決める実行力があまりなく、ライセンシーの誘導にとどまるという欠点があります。とはいえ、この欠点は前述の強みの裏返しの部分であり、やむを得ない部分でしょう。

Intelの製品力

Intelの強みはチップレベルでの最終製品を完全に自社で完結して製造できる点にあります。しかもその製造技術は世界一であり、他社の追従を許さないレベルにあります。一方で、設計情報を外部に出すことがないため、最終消費者向け製品を作るメーカーから見るとARMと比較して柔軟性に欠けます。これが大きな欠点です。

両者の強みと弱みの関係

このようにARMとIntelの強みと弱みは、互いの弱みと強みにそのまま該当する関係となっています。

Internetへの接点とサーバーへのデータ吸い上げ

IoTでは最終的にInternet経由(あるいはIPプロトコル経由)でサーバーにデータを吸い上げるという形態が一般的になるかと思います。

この時に、何かのデバイスを経由する必要のあるIoTの場合において、スマートフォンを経由すると考えるとこの分野を制しているARMに優位性がありそうに思えます。逆にパソコンを経由する場合はどうでしょうか? IntelとMicrosoftにもチャンスがあるように思えます。このあたりは有線(Ethernet)なのか無線(Bluetooth / Wi-Fi)なのかによっても大きくわかれそうですし、場合によってはIoTデバイスそのものが直接Internetを経由してサーバーに接続する能力を持つ可能性もあります。

これはそれぞれのIoTの特性(例えば、移動する何かに取り付けられているために電力に余裕がないのか、据え置き型の何かに取り付けられていて電力に余裕があるのか、など)によって大きく変わることであり、複数の形態が併存することになるでしょう。

まとめ

結局のところ、現状では結論の出せる話ではなく未来予想をするだけのことになってしまうのですが、ARMの構想には説得力があるように私には思えます。ただ、一方でその実行力にはやや疑問符が付くことも確かであり、そこにIntelの入り込む余地があるでしょう。

どちらが征するにしても、まずはその前にIoTという市場が本当にあって、そこにはARMやIntelが想定する程度にインテリジェントなチップが必要とされていることが必須の要件となります。現状ではそこがはっきりしていないように私には思えています。

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