Bluetooth の普及状況
私は、昨年 FOMA P902i の購入と前後して Bluetooth を使用し始めました。当時、コラムに「Bluetooth は普及しないだろう」と予想を書いたのですが、その予想通りに現在もまだ一般に普及したとは言えない状態が続いています。とはいえ、携帯電話を扱う店舗において、Bluetooth ヘッドフォンを見かけるようになるなど、当時よりは一般的になってきたのかもしれません。
しかし、パソコンへの標準搭載などを見る限りはなかなか厳しい状態が続いているようです。その理由をちょっと考察してみたいと思います。
Bluetooth の利点
私は一年近く Bluetooth を使用してきており、現在はすでに Bluetooth を利用しない日の方が少なくなっています。主な用途は A2DP によるイヤフォン接続と DUN によるダイヤルアップ接続です。どちらもワイヤレスでの快適な接続が大きな利点です。
Bluetooth の欠点
逆に欠点もあります。上記2つの接続を同時に利用することが困難なところです。現在最新の Bluetooth 2.0 + EDR では約 2Mbps の帯域があるのですが、残念ながらこの規格を採用しているのは、ほぼパソコンとパソコン用の Bluetooth デバイスのみです。前述のイヤフォンもそうですし、DUN で接続する FOMA P902i も Bluetooth 1.2 止まりであり、その帯域は約 700kbps しかありません。このため両方を同時に使用すると、2つの接続が帯域を奪い合ってしまい、まともにイヤフォンから音が出なくなります。このため残念ながら現在のところ両者は排他的にしか使用できずにいます。
Bluetooth 2.0 + EDR が一般的になり、手持ちの機器が全て Bluetootn 2.0 + EDR に対応したものになれば解決する問題なのかもしれませんが、現在のところそういった機器をみかけることはありません。実質的に Bluetooth 1.x 製品しか市場にないのです。
そして、おそらく Bluetooth 2.0 + EDR 対応の製品が市場に出回るよりも早く Wireless USB が普及してしまうのではないかと、私は考えています。とはいえ昨年の段階では、そろそろ出てきているはずだった Wireless USB 関連製品(と、それをサポートするはずの Windows Vista)が現在のところ市場にまったく出てきていないことを考えると(それがメジャーな製品になるかどうかは別として)ある程度市場に登場する可能性もありそうです。
FOMA などの携帯電話側はどうでしょうか。海外では Bluetooth 2.0 + EDR 搭載の携帯電話もあるのですが、日本でも登場してくる可能性はあるのでしょうか。とても気になります。
Windows Vista における Bluetooth サポート
Windows における Bluetooth サポートは、Windows XP Service Pack 2 である程度導入され、Windows Vista でサポートの幅がようやく他社製スタックと同程度に拡張されつつあります。手持ちのプラネックス・コミュニケーションズ製Bluetooth USB Dongle EDR(BT-01UDE)を Windows Vista をインストールしたマシン(構成はこちらを参照してください)に挿してみました(中身は Windows Vista の Bluetooth 実装に貢献した CSR による BlueCore のようです)。すると Generic Bluetooth Radio として認識され、使用できるようになりました(同時に Bluetooth のサポートを行うドライバである「Bluetooth デバイス (RFCOMM プロトコル TDI)」、「Microsoft Bluetooth Enumerator」、「Bluetooth デバイス (パーソナル エリア ネットワーク)」がインストールされます)。試しにパナソニック モバイルコミュニケーションズ製ワイヤレスオーディオレシーバー(EB-M70073)を認識させてみました。ペアリングを行うと、なぜか「Bluetooth Peripheral Device」を検出して、付属のデバイスドライバの入ったディスクを挿入するように表示されます。特別なプロファイルを使う機器でもありませんし、付属のディスクなどはないので「キャンセル」を行いました。さらにもう一度同じウィンドウが表示されたので、これも「キャンセル」を選択しました。これにより「Bluetooth ハンズ フリー オーディオ デバイス」が組み込まれて使用可能な状態になります。ただ、これはサンプリングレートが低く、モノラル限定のものである HFP であろうことから、「コントロールパネル」の「Bluetooth デバイス」から「EB-M70073 のプロパティ」を開いて「ハンズフリー テレフォニー」のチェックを外して新たに「ヘッドセット」にチェックを入れて「OK」ボタンを押してみました(サービスとして表示される選択肢は「オーディオ シンク」、「ハンズフリー テレフォニー」、「ヘッドセット」、「リモート制御」の4つです)。
これで使えるだろうと思い、右下のタスクアイコンでスピーカーのアイコンを右クリックして「再生デバイス(P)」を選び「サウンド」ウィンドウを表示し、ここでは「Bluetooth Hands-free Audio」という選択肢があるので(ほかにサウンドデバイスがあればそれも表示されます)、これを選択して「プロパティ(P)」ボタンを押してみました。すると「Bluetooth Hands-free Audioのプロパティ」というウィンドウが表示されるので、「詳細」タブを選択して「テスト(T)」ボタンを押します。これで EB-M70073 から音が聞こえてきます。しかし、その接続は HFP によるもので、オーディオ向けの A2DP ではありませんでした。途中の表示でひょっとしたら、とは思いましたがそのとおりだったようです。残念。
いろいろと試したのですが、結局 A2DP によって EB-M70073 から音を出すことはできませんでした。そこでちょっと調べてみたところ、Microsoft WinHEC 2006 のスライド「Bluetooth Advances In Windows Vista And Beyond」の中に「Profiles On Windows Vista」というのがあり「Stereo audio profiles (A2DP, AVRCP) available on Windows native stack via Bluetooth silicon vendors. Microsoft update for stereo audio profiles currently being investigated.」とあるので、現状ではサポートしていない(Bluetooth 機器ベンダーが提供するとしている)ようです。別のスライドである「Bluetooth and USB [WinHEC 2005]」によると、オーディオ・ビデオ関連はサードパーティが提供する、とあるので Microsoft 自身が提供してくれるのかどうか不透明ですが、いずれ何らかの形で使用できるようにはなるようです。
FOMA P902i を使用してのダイヤルアップに関しては FOMA P902i を「ダイヤルアップ全待機」状態にしてどの接続も受け入れるようにした上で、Windows Vista 上にて「Bluetooth デバイス」ウィンドウを出して「追加(D)」ボタンを押し、「Bluetooth デバイスの追加ウィザード」で認識させてから「ネットワークと共有センター」ウィンドウで右側に表示される「接続またはネットワークのセットアップ」を選択して表示される必要事項を入力することで問題なく接続できることを確認しました。DUN に関しては特に問題はないようです(実際にダイヤルアップを行うためには、あらかじめ FOMA P902i に対して接続先の設定を行う必要があります。詳しくは付属のマニュアルの AT コマンドリファレンスを参照するか、FOMA ケーブルを用いて USB で接続して、付属のCD-ROMに含まれるソフトウェアによる設定を行う必要があります)。
まとめ
Bluetooth は使ってみて初めて便利さが実感できる規格です。しかし、現在のところ普及は進んでいません。また、Bluetooth 1.x 製品が多いことから、複数の接続を同時に扱うことが困難な点も残念です。さらに、OS 標準でのサポートがまだまだ足りないことや、メーカー製の Bluetooth スタックについてもそれぞれのスタックごとにあれこれマニュアルに記述しなければならないことが多く、サポートをしにくいという現状があるように思えます。
しかしながら、最初からこういった問題があることを理解した上で使うのであればさほど問題はありません。Bluetooth を使ってみようかどうしようか悩んでいらっしゃる方がもしもこのメモを読んでいらっしゃったら、とりあえず使用してみることをお勧めします。USB-Bluetooth アダプタには安価な製品もありますし、ぜひ試してみてください。
あとは Wireless USB 製品がいつ出てくるのかというのも楽しみです。最大 480Mbps の速度で、ソフトウェアから見て USB とさほど変わらないというこの規格は、製品が早いペースで発表されることが期待できます。ワイヤレスによるデバイス慣れた私としては登場が今から待ち遠しい限りです。