ビル・ゲイツさんの「Ctrl+Alt+Delete」は失敗発言について

Microsoft会長のビル・ゲイツさんが「Ctrl+Alt+Delete」について触れた部分が、ちょっと変な方向にバイアスがかかって広まっているので、その点についてコラムとして触れたいと思います。私の目についた関連記事を4つ、以下に紹介します:

まず、「Ctrl+Alt+Delete」がいったい何なのか、ということから始めないと、正しい理解は得られないと思いますので、そこから始めます。

当初の「Ctrl+Alt+Delete」はIBM PCに搭載されたBIOSのキーボード処理が持つ特殊な機能で、マシンをソフトウェアリセット※1するための操作でした。何らかの理由でソフトウェアが反応しなくなった場合や望む結果が得られなかった場合にキーボード操作でやり直しができるように搭載されたもので、基本的に各種ソフトウェアに共通して使用できるものでした。

これをWindows 3.0あたり※2から、操作を受け付けなくなったWindowsアプリケーションを停止させるためにも使用するようになりました。意味合い的には前述の再起動コマンドと似ているということもあり、広く受け入れられる操作だったのではないかと思います。

同時代後期に開発されたWindows NTにおいて、前述の各種記事のようにログオンのための操作※3に「Ctrl+Alt+Delete」を使用することになりました。これは、この操作が特別なものとして扱われることにより、ログオンに伴う表示の偽装をさせない、という設計思想(アーキテクチャ)に基づくものです。※4 と同時に、この操作は従来から特別な意味で使われていたため、アプリケーションが「Ctrl+Alt+Delete」の入力を必要とするものがなく、特別な意味合いを与えやすかったということにもよります。

さて、以上が前提の話です。

今回のビル・ゲイツさんの発言は最後の「Windows NT」に関する部分の質問についての「Ctrl+Atl+Delete」に関する発言です。取り出された部分だけを見るとちょっと勘違いしそうなのですが、ビル・ゲイツさんは、

  • IBMがWindows NTのために専用のキーを用意してくれなかった。※5
  • 故に「Ctrl+Alt+Delete」を採用した。

これが結果としてよくなかった、ということを言っているわけであり、「Ctrl+Alt+Delete」という入力機構そのものは失敗というか「よくないものであった」と認めているものの、それは「IBMが専用のキーを設けてくれなかった」から、仕方なかったんだ、というニュアンスです。つまり、必要な入力手順を「Ctrl+Alt+Delete」に割り当てたのは結果として仕方なかったが、最良の手段ではなかったという感じのことを言っているように私には見えました。

まぁ、でも、妥協の結果として私は悪くなかったと思います。IBMがキーの追加を拒んだうえで、既存の操作とは一線を画してセキュリティを確保した表示を呼び出す操作を追加するとして、ほかに「最適」と言える方法があったでしょうか? やむを得ないところだったのではないかと思います。これをやらなかったらやらなかったで、セキュリティがなっていないと非難されたことは明らかですしね。専用の表示を呼び出す、専用の操作はあっていいものです。

しかし、それが家庭に入ってくる段階で「余計なもの」になってしまったのかもしれませんね。それも、Windows XPではドメインへのログオンが必要(かつ適用されるグループポリシーが求めるた場合)でなければ標準でオフになっているわけで、「失敗」とあげつらうのはちょっと違う気がします。現在のWindows 7やWindows 8でも同様に不要になっていますよね。

要するにそこだけ取り出して「Ctrl+Alt+Delete」は失敗だったとするのは、やや本質的なところを踏み外している伝え方です。だいたい、こういってはなんですが、ビル・ゲイツさんはWindows NTの開発者でも設計者でもないので…、彼の発言をそこまで取り上げる意味はないんですよね。

それだけ彼が神格化されているといったところでしょうか?


  • ソフトウェア的に再起動
  • 実際にはもう少し前のWindows/286とかWindows/386あたりでもそうだったんじゃないかと思いますが私は未確認です。
  • より限定的な表現でいうと、アプリケーションとは別のウィンドウステーションGINAによる表示スクリーンを呼び出すための操作。ただし、GINAはWindows Vistaで廃止されました。
  • これをSAS : Secure Attention Sequenceといいます。
  • 当時のIBMとMicrosoftの力関係およびNTとOS/2による対立構造からみれば当たり前の話です。詳しいエピソードは「闘うプログラマー[新装版] ビル・ゲイツの野望を担った男達 / 著・G・パスカル・ザカリー 訳・山岡洋一 / 日経BP社 9784822247577 1920055018005」を読むといいでしょう。該当する部分のエピソードを非常に簡単にまとめると、Microsoftは新しい「OS/2」を作るとIBMに伝えて「OS/2 NT」を作り始めるのですが、その後「Windows」が市場に受け入れられたことを受けてWindows互換の「Windows NT」へと方向転換、結果としてIBMと袂を分かつことになるのです。

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