はじめに
ファイナルファンタジーシリーズで初めての再リリースとなった、ファイナルファンタジーXIV※1。その再リリース版「ファイナルファンタジーXIV・新生エオルゼア(本文中では以下「新生版」と略記)」がついに2013年8月27日に正式サービスイン※2を迎えました。
この件について、旧ファイナルファンタジーXIV(本文中では以下「根性版※3」と略記※4)の購入者でもあり、ファイナルファンタジーXI※5(本文中では以下「FFXI」と略記)のプレイヤーでもあった(過去形)筆者からコメントをしたいと思います(ちなみに根性版のオープンβと新生版のクローズドβに参加していました)。
一般的な情報は通常のWeb媒体に大量に掲載されているので、このメモではそういったWeb媒体には掲載されないであろうと思われる点を取り上げます。※6
※各人物の肩書は原則としてその時点でのものを用います。
※ファイナルファンタジーXIVを根性版、新生版を分けない場合にはFFXIVと表記します。
旧ファイナルファンタジーXIVの自滅
根性版はクローズドβテストの段階から、このままではダメだ、という意見が多数出ていました。そんなテストプレイヤーの声を無視しててリリースを強行し、そしてみごとに自滅への道をたどりました。その際に和田社長からのメッセージと田中弘道プロデューサーの辞任(事実上の更迭)※7、そして後任に吉田直樹プロデューサーを充てる人事が発表※8され、それと同時に当面はサービス料金の徴収を行わないことになりました。
ファイナルファンタジーXIVの再構築
吉田プロデューサーは自身で根性版をプレイして現状把握を行い、前代未聞の再構築が決定されます。通常の再構築であればいったんサービスを止めて開発をやり直すわけですが、ファイナルファンタジーXIVでは根性版の稼働状態を保ち、かつアップデートを行いながら新生版を別に作るという、これまた前代未聞の作業が行われました。
スクウェア・エニックスの総力を結集して開発をしている、と言われていました。
その陰で追いやられるファイナルファンタジーXI
根性版と新生版の並行開発のためにスクウェア・エニックス社内のリソースのかなりの部分が持っていかれたようです。FFXIチームも大幅縮小となり、満足に開発が進まない状況が発生しました。プレイヤーからはFFXIは有料サービスとしてお金を取っているサービスなのにこの体たらくではないか、と不満を述べる意見がフォーラムに書き込まれるなどしました。※9
その中で、田中プロデューサーから人が足りない旨のコメントが書かれました。※10他のスタッフからも何度か同様のコメントが書き込まれています。
正直なところ、田中プロデューサーはFFXIのスタッフをFFXIVへ引き抜かれることに抵抗できなかったのではないかと思います。自身が失敗させたプロジェクトを立て直すためにスタッフが必要だから供出しろ、と言われて抵抗はできないでしょう。本当に苦しい立場だったのではないでしょうか。
その後しばらくして田中プロデューサーはスクウェア・エニックスを病気を理由に退社します。※11
人材不足が深刻化するファイナルファンタジーXI
人材不足の深刻化がさらに進み、自分たちで提示したロードマップの遂行も不可能なことが誰の目にも明らかになります。そして今年(2013年)に入ってからは、ロードマップの提示はとうとう撤回されました。※12
ファイナルファンタジーXIが打ち出した禁断の一手
そして、そんなFFXIに今年、新拡張データディスク「アドゥリンの魔境※13」がリリースされました。このディスクを出すためにいろいろな作業が遅れているんだ、と一縷の望みをつないでいたプレイヤーは多いと思います。
そのディスクのリリース少し前から不穏な発言がゲーム雑誌に掲載され、一部プレイヤーが不信感を募らせていきました。それは、ゲーム内で取得に手間のかかる3種の武器について、今後は普通の武器にとってかわられる、というものです。使用した言葉が刺激的であったこともあり、田中プロデューサーの後任である松井プロデューサーが謝罪するという事態にも発展しました。※14
このディスクのリリース直後しばらくはその言葉の意味が判明しなかったのですが、その後のバージョンアップで導入された武器、防具群は従来の武器、装備群を全否定するほど強力なものでした。つまり、開発陣は実質的に従来のFFXIとしての調整を完全に放棄して、FFXIVより一足早く「新生」させることにしたのです。
長らく、そう、本当に長らく11年も続いてきた従来のFFXIを放棄してしまったのです。
ファイナルファンタジーXIの激変
このため、長年にわたって積み重ねられてきた従来コンテンツ群が実質的にプレイに値しなくなり※15、新たに「アドゥリンの魔境」で実装された数少ないコンテンツだけをプレイする、そんなゲームに退化してしまいました。
そして、従来のコンテンツをかろうじて頑張って武器、装備群を入手してきたプレイヤーの努力も水泡に帰することになりました。
これはいわゆる「廃人」あるいは「廃神」と呼ばれる、常に先頭集団にいる一握りのエリートプレイヤーと、従来必要とされた努力についていけなかった後続の中堅以下のプレイヤーには悪くない※16状況でしたが、中堅以上のプレイヤーには相当なダメージを与えました。※17
さらに、従来のコンテンツを攻略するために集っていた集団(リンクシェル※18という)も、その存在意義を失い、解散するか新コンテンツに移行するかの選択を迫られ、解散を選択するリンクシェルもそれなりに出たようです。
これによってずいぶんと引退するプレイヤーが発生したようです。※19
しかし、人材不足が深刻化した現在の開発陣が「新生」させたFFXIのためのコンテンツを満足に提供できることはなく、また深刻化しているPlayStation 2での不具合の修正もできず、とにかく踏ん張る状態となっています。
ファイナルファンタジーXIV・新生エオルゼアにおける利用料金の格差
新生版では、根性版の有料プレイを一定期間(90日)以上したプレイヤーには特典を用意するという「レガシーキャンペーン」を実施しました。その中には新生版のプレイ料金の割引やゲーム内要素に対する便宜が含まれています。※20
根性版のプレイヤーを引き留めるためとはいえ、この歪みともいえる2層構造を新生版に持ち込んでしまったのは悪い決断になるのではないかと思います。客観的に見て、これから新生版をプレイしようかと検討するプレイヤーにとって、この2層構造の料金表を好ましく見る人は皆無だと思えるからです。
もう少し何か、違う内容にしておけばよかったのではないかと思います。
過去から予想するファイナルファンタジーXIV・新生オエルゼアの将来
こうした11年におよぶFFXIの運営から見えてくるのは、もしも何かの失敗があって、会社内で大義名分となる「何か」の状況が起これば、運営が困難になるほど開発チームが弱体され、その大義名分側に人的リソースを振り分けてしまうという事実です。しかも、その運営対象(FFXI)は利益を生み出していて、そしてある意味で無料提供を継続したFFXIV側へその利益が流れている状況となったのです。FFXI側のプレイヤーが面白い状況ではない、というのはよくわかるでしょう。
もし、FFXIVが今のFFXIの立場に立つようなことがあったとき、同じようなことが繰り返されるのではないかと、どうしても不安を拭い去ることができません。
吉田プロデューサーにしても、自分のFFXIV側のプロジェクトのためにFFXIの状況を無視したという側面があるように思えてなりません。そんな吉田プロデューサーを完全に信用することは、元FFXIプレイヤーとしてはできそうにありません。
まとめ
このように、私としてはファイナルファンタジーXIV・新生エオルゼアのリリースに対して素直に「おめでとう」という気にはなれないのです。とりあえず、根性版は持っているので、利用料金だけでプレイできるということもあって、今後もプレイしない、と言い切るつもりもありませんが、現時点ではもう少し模様眺めをしつつ、自分でどうしたいと思うか、自分自身を観察してみたいと思っています。
ちなみに、スクウェア・エニックス内でもいろいろと思っている方もいらっしゃるようです。※21
というわけで、本日FF14がいよいよ再誕です。自分としてはクロい想いも多々ありますけど、それはそれ。
正統ナンバリングの再スタート。
ぜひその目で、確かめてください。— よじぃ (@yochy2210) August 26, 2013
- ファイナルファンタジー14、FF14、FFXIV、FINAL FANTASY XIVなどと表現揺れがあります。
- アーリーアクセスの条件を満たしているアカウントは2013年8月24日18時(日本時間)よりプレイ可能です。
- 公式には「レガシー」と呼ばれているようです。
- ファイナルファンタジー11、FF11、FFXI、FINAL FANTASY XIなど、こちらも同様に表現揺れがあります。
- 結果としてネガティブな部分を取り上げることになりますが、避けるべきではないと思い、書くことにしました。
- 当時はファイナルファンタジーXIVとファイナルファンタジーXIのプロデューサーを兼務していましたが、更迭されたのはファイナルファンタジーXIV側のみであり、ファイナルファンタジーXIのプロデューサー専任への変更となりました。
- 本来であれば関連ソースを示したいのですが、この手の意見は「フォーラムの目的に貢献しない内容が記載されていたため削除いたしました。」としてフォーラムから削除されてしまうため、示すことができません。
- 公式フォーラム「なんでFF11のほうはプロデューサーさんからの書き込みがないの?」より、田中プロデューサーの該当書き込みの抜粋を以下に引用します:
FFXIVに比較して圧倒的に少ない人数で開発しているために、開発者各人の負荷が非常に高い状況のため、開発者が個別に回答することによってフォーラムへの回答範囲に偏りが出ないよう、コミュニティチームが一元的に全スレッドを巡回して優先度の高い案件をピックアップして開発に伝えてくれています。
- 【速報】『FFXI』田中弘道氏がスクウェア・エニックスを退社し、同作のプロデューサー職からも勇退【田中氏のコメント追加】 – ファミ通.comより該当部分を以下に引用します:
田中 じつは難病を患っており、体調的な面もあって、今回の決断をさせていただきました。
- 理由をそれらしく述べていますが、実行不可能な点を突かれるのを避けるという目的が一番であると感じました。公式フォーラムの該当する松井プロデューサーの発言「次回バージョンアップのお知らせ」から以下に引用します:
これまでFFXIでは一年間のロードマップをお届けしてきました。
半期分づつ公開することも試みましたが、
やはり先のスケジュールになればなるほどその精度は落ちてきますし、
大きな項目、かつ限られた内容しかお伝えすることができませんでした。結果、スケジュールの変更でガッカリさせてしまったり、
こまめなアップデートがしづらかったりと
デメリットの方が大きくなっているように思えたため、
基本的には「次回のバージョンアップの内容」に範囲をとどめ、
今後も継続してお届けするスタイルに変更いたします。未だ手探りな部分もありますが、ぜひご理解とご協力をお願いいたします。
- 完全に余談になりますが、この「アドゥリンの魔境」はPlayStation 2最後のソフトウェアとなったそうです。もっとも、PlayStation 2ではFFXIはまともに動かないのですけどね…。この状況すら修正できないほど人材不足が深刻化しているようです。
- 「捨てないで取っておいてください/FF11用語辞典」に経緯が掲載されています。また、公式フォーラムにおける松井プロデューサーの謝罪投稿はこちらにあります。
- 一部のストーリー重視のコンテンツはその後でもプレイする意味はありますが、そうではない、報酬取得型のコンテンツは暇つぶし以外にプレイする意味が失われることになりました。「暇つぶし」という表現がすごく奇異に思われるかもしれません。実際、オンラインゲームというものを理解していないと奇異な表現だと思います。限られたプレイ時間の中でゲームを進めることになるオンラインゲーム(特にFFXI)では、その時間を現在の自分自身のキャラクターを強化させることに費やすことになります。となると「暇つぶし」のコンテンツをプレイする意味は本当に少ないものとなってしまうのです。これはその価値観を持つまで、客観的には理解しにくいと思います。
- エリートプレイヤーはまた差をつけるチャンスにもなりますし、なにより攻略しつくしているので次の攻略対象ができるというのはよいことなのです。中堅以下のプレイヤーは自分たちの前にいる中堅以上のプレイヤーが自分たちのラインまで押し戻されるため、目の上のたんこぶがとれる思いだったでしょう。
- 私がFFXIのプレイを完全停止をしたのはこのタイミングより前です。そもそも停止することを決めたのはもっと前です。過去連続クエスト残り一国と、三国ミッションのうち残り二国分を最後までやりたかったのですが、結局時間がなくてできませんでした。
- 他のゲームにおけるギルドなどに相当します。
- 日本人よりも外人勢の離脱者がひどいことになっているようで、フォーラムではプレイ不可能なのでワールド統合を希望する、というようなことも書き込まれています。
- 「レガシーキャンペーン」より該当部分を以下に引用します:
レガシー特典
1. 新生以降FFXIVサービスを恒久的にレガシー料金でプレイ可能 ※12. 新生FFXIV正式サービス時にスペシャルチョコボをプレゼント
3. 新生FFXIVリリース時のスタッフロールに希望される方はお名前を掲載 ※2
なお、※1の料金は「スタンダード / 30日 / 1,480円(税込1,554円)」相当の「レガシー / 30日 / 980円(税込1,029円)」が用意されるというもので、525円/30日の割引です。なお、このレガシーの課金は一般的なページ(例えばファイナルファンタジーXIV 新生エオルゼア サポートセンター / よくあるご質問/お問い合わせ / ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼアの利用料金・課金形態について教えてください。)では伏せられています。いささか作為的なものを感じます。
- このフジトさんはFFXIの開発スタッフの一人です。