はじめに
日本語にはカタカナ言葉がよく登場します。主に外来語(≒外国語)を日本語内に含める場合によく使用しますが、このカタカナ言葉の単語末の長音記号をどのようなルールで表記する、あるいは省くのについては、よく議論になります。これについて、私個人はどのようにしていこうとしているのかをメモにまとめてみたいと思います。
今回のこのメモでは単語末長音記号を省く派を「省略派」、省かない派を「非省略派」と記述します。
単語末長音記号の議論
そもそも、なぜ省く/省かないが議論になるのでしょうか? それは、前提として付けるのが「普通」、付けないのが「普通」とそれぞれ思っている両派が存在することによります。つまり、表現としては両派がそれぞれ存在するということを認めるところからこの話は始めなければなりません。
省くのか省かないかの議論の多くは、ICT(情報通信技術 : Information Communication Technology)系の人たちと、それ以外の人たちの間で起こっているように思います。
工学系の人やコンピューター系の人は省く世界に生きてきた人たちが多数派です。このため省くことを好み、省くことを主張し、また省くことを実践している人が多いかと思います。実際、多くの関連書籍やソフトウェア上の表現も省く方向に統一されていましたし、今現在でも省いている関連書籍が多数派でしょう。
一般的な記述
これに対して一般的な日本語としては通常は省きません。明確にこの辺りを定めているのは1991年6月28日に告示された「内閣告示第二号 外来語の表記」です。ただし、前書きには、
- この『外来語の表記』は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころを示すものである。
- この『外来語の表記』は,科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
- この『外来語の表記』は,固有名詞など(例えば,人名,会社名,商品名等)でこれによりがたいものには及ぼさない。
- この『外来語の表記』は,過去に行われた様々な表記(「付」参照)を否定しようとするものではない。
- この『外来語の表記』は,「本文」と「付録」から成る。「本文」には「外来語の表記」に用いる仮名と符号の表を掲げ,これに留意事項その1(原則的な事項)と留意事項その2(細則的な事項)を添えた。「付録」には,用例集として,日常よく用いられる外来語を主に,留意事項その2に例示した語や,その他の地名・人名の例などを五十音順に掲げた。
※下線強調は筆者が追加しました。
とあり、一般的な表現のよりどころ以上ではなく、前述の工学系やICT系の人に影響を特段与えることはありませんでした。
Microsoft Windows 7での変革
この状況が大きく変化したのは、マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)が、Microsoft Windows 7(公式製品ページ見つからず)に合わせて「マイクロソフト製品ならびにサービスにおける外来語カタカナ用語末尾の長音表記の変更について」という発表(従来省略してきた単語末長音記号を原則として省略しないという発表)をしてからです。
Windowsはパソコンにおける事実上の標準OSであり、省略派にとっては大打撃になりました。インターネット上でもいろいろと議論が沸き起こっていたのを覚えています。
なぜマイクロソフトは方針転換したのか?
では、なぜマイクロソフトはこれまでの方針から転換したのでしょうか?
これは私の推測になりますが、パソコンが一般化(コモディティ化)したからではないかと思います。パソコンの世界が工学系やICT系の一部の人たちのものだけであった時には、その世界の中では多数派であった省略派に合わせることがニーズにも合っていたのでしょう。それが、パソコンの一般化によってWindowsの使用対象者が一般に大きく広がり、非省略派の方が多数派になったということなのでしょう。それに合わせてマイクロソフトは標準を変更してニーズに合わせる、そんな決断をしたのだろうと想像しています。
ではどうするのがよいか?
私個人としては、長音記号を省くのではなく、付ける方向でいいのではないかと思っています。
日本のICT系企業の大手、例えば、日本電信電話(NTT)系(※)、日本マイクロソフト、日本IBMなども非省略派ですし、それ以外の業種ではもちろん省略派は少数派です。
※2008年初頭から順次移行中で、新しい一般向け表記は非省略に切り替えており、過去のものはそのまま、社内の用語や部署名などは不統一状態。例えば、最近話題に残念なニュースでなったNTTコミュニケーションズのOCN IDの不正アクセスについてのプレスリリースでも「OCN IDのサーバーにおいて不正アクセスが発生」と伸ばして表記している。
日本語全体でも伸ばすことが多く、省略派は少数です。こうした中で、省略にこだわって一般用語まで省略表記をすれば読みづらく違和感いっぱいの文章になりますし、一般用語は非省略、ICT系は省略などと混ぜ書きをすると文章全体のバランスがおかしなことになってきます。また、マイクロソフト製品について言及する場合には非省略にせざるを得ないわけで、やはり省略という選択を取りづらい状況だと思います。
まとめ
この議論の本質は、要するに異文化の衝突だと言えます。なので「決定的にこれが正しい」というものは存在しないというのが事実だと思います。
私としては、言葉は人に伝わってこそだと思うので、私は多数派の非省略の方がよいだろうという判断をしています。なぜなら、無理に省略することに利点が思い浮かばないか、あるいは非常に些細なものだからです。というわけで、このサイトでは長音記号は原則として「省略しない」方向で書いていこうと思っています。
※この執筆時点での立場であって、未来永劫この立場が変わらないというものでもありません。
※このメモも過去分についてはかなり揺れています。たぶん今後も揺れ続けるでしょう 🙂
※過去分を修正するつもりはありません。
※適応先が特定分野に限定される文書の場合、その特定分野のしきたりには合わせます(例:JavaのAPIリファレンスを作成する場合)。これは前述のように「言葉は人に伝わってこそ」だと考えているための対応です。
補記
2013年8月14日
当初、非省略の導入が「Windows Vista」からと記載していましたが、正しくは「Windows 7」からでしたので、そのように修正を行いました。