アニメ「ペイル・コクーン(PALE COCOON)」

ペイル・コクーン タイトル (DVDより)

はじめに

イヴの時間」で有名な吉浦 康裕さんによるアニメです。「ペイル・コクーンスタジオ六花)」に吉浦さんご自身による解説ページがあります。

そこから少し引用します:

『ペイル・コクーン』は吉浦最後の個人制作アニメーションであり、初の商業作品でもあります。2004年初頭に絵コンテを描き始め、約一年+α の制作期間を経て2005年に完成。映像コンテンツプロダクション DIRECTIONS よりDVDを発売させて頂きました。また、音楽をムーンライダースの岡田徹さんに、劇中歌の作詞を『ゼロになるからだ』の覚和歌子さんに担当して頂いています。

この作品を最近になってavexから出ているDVDを購入してみてみました。正直なところ、あまり期待していなかったのですが(すみません)、いい意味で思い切り裏切られました。そんなお勧めのアニメーションです。

  • タイトル:ペイル・コクーン
    発売日:2006/01/18
    価格:¥2,940 (税込)
    品番:AVBD-34307

DVDには表題の「ペイル・コクーン(22分53秒)」のほか同英語字幕版、「水のコトバ(9分7秒)」と同英語版も収録されています。「水のコトバ」も大変よいアニメーションなのですが、両方を同時に取り上げるのは難しいので別に紹介したいと思います。

あらすじ

歴史という名の記憶がどこかで途切れた。
気が付けば人間は、この世界で生きていた。

表面を覆うように形成された人工の世界

主人公ウラは「記録発掘局」で過去の「記録」を発掘して復元する「復元課」の仕事を担当しています。ウラが復元した「記録」を「分析課」のリコが意味づけ(メタ情報)をつけて保管していく、そんな日常を過ごしていました。ウラとリコの暮らす「世界」は、「はじめにあった世界」の上にその表面を覆うように形成された人工の世界となっています。その中で暮らす人間たち。最下層には環境維持装置があり、そのさらに下には「海」と呼ばれるエリアが広がっています。

ペイル・コクーン 主人公 ウラ

繰り返される日常の中で、とある「記録」を発掘することで…、という話です。

さかきけいの感想(ネタバレあり)

ここから先はネタバレが含まれます。まだ本作をご覧になっていな方には読むことをお勧めしません。ぜひ本作をご覧になった後で読んでいただければと思います。

当初、自分たちのいる「世界」が「地球」の上に形成された人工収容施設であるとウラ達は考えています。しかし、発掘した「記録」によって、実は自分たちがいるのは「地球」ではないことを知ります。自分たちがいるのは実は「月」なのだ、と。

この「ペイル・コクーン」は「歴史」や「記録」、そしてそれが持つ意味について非常に深い示唆を多角的に提示する構造をもったアニメーションです。見る前は「約23分でいったい何を描けるのだろうか?」と懐疑的でしたが、見てみたら無駄のまったくのない構成で、とても23分は思えない世界がそこには広がっていました。

ペイル・コクーンでは光が印象的に使われている

「光」の使い方がとても印象的で、「色」が記録を演出しています。そして「歌」が世界を表現しています。特に「歌」が流れる00:16:44からのシーンはかなり感情が揺さぶられます。こんなに印象的な「歌」の使い方をしているアニメーションは久しぶりです。

蒼い繭(あおいたまご) - YOKO YAMAGUCHI - 文化庁

「記録」の持つ意味は本当に考えさせられます。今も人間は過去を調べては歴史を編纂し続けています。その対象は現在のところ証拠とそれに対する考証で成り立っていますが、デジタル世界が今後もずっと続いて、それがあるとき「ぷちっ」っと途切れると、その発掘対象はバイナリーのデータになるわけですよね。当たり前だし、漠然としたデジタル記録に対する不安をとても現実的に描いていると思います。

そして、そんな風に記録されたデータの中から、「ペイル・コクーン」そのもののデータを「発掘」することによって「世界」を知ったウラが「空」を見にいくわけですが…。

そこには「YOKO YAMAGUCHI」が「でも…空を見上げると、錆びついた色をした地球があるんですよね…。」と表現していた地球が青い姿で(00:22:13~)見えています。環境維持装置が影響しない階層、そこでウラは…といったところで話は終わるわけですが、その一方にいるリコの存在が非常に示唆的に思いました。ウラが上層で落とした本をリコが見て、その本に導かれるようにして「YOKO YAMAGUCHI」の映像に触れるわけです。

たぶん、ここから新たなる世界の話が始まる、そんな風に思えました。

なにか、とっても「記録」にこだわった作品ですよね。個人的にはこんなセリフが気に入っています:

00:19:46~

リコ:私ね、ここにいるとよく思うの。
   昔の人はどうして記録を残したんだろう、って。
ウラ:じゃあさ、これはどういうつもり?
リコ:変わらないでほしいことってあるのよね。
   はい、記録します♪

こんなことを書いているこのメモ自体が私の「記録」なのです。

あ、あとですが。DVDのルートメニューから「SPECIAL」→「もう一つの発掘記録」に記録されている内容はすべて読みましょう。より深くこの作品を理解する手助けとなることでしょう。

まとめ

一言でいうと、おすすめするので見てください、っていうことに集約されそうです。というかですね、おすすめじゃないものは取り上げないので、今後もいろいろと取りあげると思いますが、“さかきけい”が普段書いていることを見て共感できそうだったら見てみてください。お願いします。

さて、お勧めすると書いてきてなんなんですが、とても惜しいところがこのアニメにはあります。それはちゃんと16:9のDVDになっていないところです。4:3の画角に上下に黒が入った状態となっています。できれば16:9のネイティブ版も出していただけると嬉しいです。

引用画像について

本稿で掲載した画像は前述「ペイル・コクーン(AVBD-34307)」のDVDより、日本国著作権法の許可する範囲内で引用したもので、著作権等は吉浦 康裕さん他が所有しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です