2つの MID

はじめに

現在、上海で開催中の Spring Intel Developers Forum 2008 のレポート記事において、多数の MID という言葉とそれを実装した機器が紹介されています。これらの MID という言葉は Mobile Internet Device の略語として使用されているものです。それに対して、このサイトでは同じ MID という言葉は主に Mobile Information Device として使用しています。

今回は、この2つの MID について書いてみたいと思います。

Mobile Internet Device

Intel が新たに開発した Intel Atom(以下、Atom) という名称を与えられたプロセッサ群とともに発表されたのが、ポケットに入れて持ち運べる Internet 機器としての MID – Mobile Internet Device (携帯 Internet 機器)です。

この Atom は、同社の主力製品である Core Microarchitecture(以下、Core MA)と同一のソフトウェアを従来よりも小型の機器でも用いることができるように設計されたもので、いわゆる「スマートフォン」と呼ばれる携帯電話から小型のノートパソコン向けに設計されています。

それらの機器をまとめて Mobile Internet Device と定義付けているようです。

Mobile Information Device

このサイトで主に扱ってきた MID がこちらです。この MID とは Mobile Information Device、つまり携帯情報機器向けの Java 仕様を指しており、このコンセプトは元々 Sun MicrosystemsMotorola が設計したものに由来しています。

携帯機器で動作するように調整された Java 仕様と組み合わせて使用することが意図された規格であり Java レベルで抽象化が行われているため、実装対象の機器は具体的には規定されていません。

2つの目的とコンセプトの違い

この2つの MID は、Mobile Internet Device と Mobile Information Device であり、一見したところではそれほど違いがないように思えます。しかしながら、その目的とコンセプトは全く異なるものです。

Intel の MID のコンセプトは、現在のパソコン向けのソフトウェア資産を携帯機器向けに活用することを意図しています。ソフトウェア的には完全に従来のプロセッサと互換性を持たせることで、携帯情報機器、パソコン、サーバーに至るまで単一のアーキテクチャで構成しようとするものです。

つまり、Intel の MID はハードウェアからソフトウェアまでの全てのレイヤーを指し示すものであって、それはパソコン向けのソフトウェア資産を上下に拡大させることができる Atom というプロセッサを売り込むための新しいコンセプトということができるでしょう。と同時に、その新しいコンセプトに沿って設計されたのが Atom であるともいうことができます。Atom による MID というプラットフォームの上に Windows や Linux などのパソコン向けのソフトウェア資産をそのまま持ってくることができるというのが利点です。

これに対して Java の MID のコンセプトは、現在のパソコンからいったん切り離して、Java という土俵の上に携帯機器向けの新たなソフトウェア基盤を用意するものです。そして、それは Java による抽象化を用いることで、その下のハードウェア・アーキテクチャを意識する必要がないようにしています(なお、この抽象化によって処理速度に一定のペナルティを受けることになります)。ただ、これはネイティブなソフトウェア・レイヤーの上に実装されるものであって、あくまでもソフトウェアの一部分を指し示すものでしかありません。

つまり Intel の MID はソフトウェアに対するハードウェア側からの互換性アプローチ戦略に基づくものであり、Java の MID はハードウェアに対するソフトウェア側からの互換性アプローチ戦略に基づくものであるといえます。

まとめ

このように2つの MID は同じ「携帯向け」をコンセプトとし、同じ略語に集約されているものの、その目指すものは大きく異なります。ある意味、目指し方が正反対であるということもできるように思います。

  • Intel はハードウェアからソフトウェア、Java はソフトウェアからハードウェアへの互換性確保を行う。
  • Intel はサーバーから携帯情報機器まで単一のアーキテクチャで占めることができるようにし、Java はそれぞれの適用範囲に最適化された環境を提供する。
  • Intel はハードウェアからソフトウェアまでの一体を指して MID というが、Java の MID は Java としての一部分のみを MID という。

などのようにです。

これらどちらの MID についても、利用者にとってはさほど差がない機器を指すかもしれません。しかし、それらの意図とソフトウェアに与えるインパクトは全く異なるものであることを知っておくのは悪いことではないでしょう。

余談

最近 Java の用語が次々に他の後発技術略語によって脅かされています。この MID もそうですが KVM もそうです。KVM は Java では K Virtual Machine という、携帯情報機器向けの仮想マシンを指しますが、最近は Linux カーネルに統合された仮想マシン Kernel-based Virtual Machine を指したりもします(個人的には、キーボード・ビデオ・マウス切り替え機のことを KVM スイッチと言っていたほうが先の気がしますけれど)。

最近の報道を見ていると、どうやら Intel の提唱する MID が Java の MID よりも露出が高くなっており、おそらく MID というと、普通は Intel の MID、ということになりそうな気がしています。

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